米原駅の東口から坂道を登って徒歩5分のところにある曹洞宗の禅寺「青岸寺」。近づくにつれ、清浄な空気が流れ出す。無駄のない境内のあちこちに、センス良く活けられた山花が心を鎮めてくれる。そして目に飛び込んでくるスケールのある名勝庭園。3月でもちらちらと雪が降る米原市。まだ雪吊りが残る松が出迎えてくれた。駅近にもかかわらず、世俗と別世界のような静寂な空気の中、まだ初々しい僧侶永島匡宏さんと奥様の慧明さんにお話を聞いた。
青岸寺では人が集まる場所にしたいと、2018年から「kissa-co 喫茶去」というカフェをオープン。「喫茶去」とは禅語で、いつでもお茶をお出しする心のゆとりを持ちなさいという意味があるそうだ。匡宏さん自らカウンターに立ち、サイフォン珈琲を淹れ、奥様が抹茶ラテを点てる。慧明さんのほっこりラテアートは、インスタグラムで話題となり大人気なのもうなずける。庭園を眺めながら、ゆっくりとお茶を楽しむ時間は、雑念を洗い流してくれるようだ。
カフェを入り口として、自分たちに何かできるかもしれない。訪れた人に、心に残る言葉を一言でもかけられたら嬉しい。お寺でカフェという現代のニーズに合わせた斬新な発想で間口を広げ、寺としての役割の本質をしっかりと捉えている。
匡宏さんは、静岡の寺の三男として生まれ、修行時代に奥様と出会い結婚。米原は新幹線が停まるから都会だと思っていたけど、来てみたら田んぼばかりで驚いたという(笑)。現在は2人の子どもに恵まれ、家族4人で暮らしている。先代が守り、築いた信頼と地盤の上で、自由に好きなことをさせてもらっている。檀家さんたちの協力もあり、カフェも順調に客足を伸ばし、座禅会にも人が集まるようになった。
好きなことは楽しく続けられる。米原で起業を考えている人にも、自分たちのように、思い切り好きなことをやってもらいたいと話す。