伊吹山の麓にある小さなパン屋「天然酵母パン Komame」。月にわずか6日しか営業しない。だが、営業日になるとほとんどのパンが午前中に売り切れてしまうほどの人気店だ。店主の伊富貴真紀さんは、隣の長浜市(旧木本町)の出身。結婚を期に伊吹に来た。
まず、なぜ「パン屋」になったのか率直に聞いてみた。 「3才からおばあちゃんと裏山に登っていましたね。小学校に入ると山登りをしながら色々な食材を取ってきて、家に持ち帰るとおばあちゃんと一緒に料理やお菓子作りをしてました。今思うとおばあちゃんとの料理やお菓子作りが、パン作り好きに繋がったんだと思います。」
「それともう一つ、私は大学の頃から環境分析に携わってきて、根っからの化学好きなんです。パン作りって化学実験と似ているところがあって、いろんな材料から酵母を作ってみたり、生地の発酵時間を変えてみたりと、色々と試したり掛け合わせることで食感や味が変わってくるんです。こつこつと試しながら美味しさを追求できるパン作りは、私の性格に合っているんですよ。」
長浜市の会社で環境分析の仕事をしていた伊富貴さん。始めは、仕事の傍ら知り合いから注文があると趣味のパンを焼いていたそうだ。それが徐々に評判になり、パン屋を職業にしようかと悩んでいた。そんなとき、旦那さんが「自分を活かせる仕事をしたほうがいい。」といってくれたことで決心がついた。我流ではダメだと思い、パン作りを本格的に学ぶため西宮にあるパンのプロ養成講座に1年通いながらパン作りを一から学んだ。
現在のお店の建物は、なんと旦那さんが手作りで作ってくれたもの。お金をかけるのではなく全てが手作りのお店。「家族の応援と助けがなかったら開業できてなかったでしょうね。」と笑顔で家族への感謝の思いを口にした。
お店を開店すると2、3時間で売れ切れになってしまう伊富貴さんのパン。ついつい、月曜から木曜日は何をしているのか聞いてみると、驚きの答えが返ってきた。
お店の営業は金曜と第1、3土曜日の月6日だけだが、仕込みを入れるとパン作りは月曜から始まっているそうだ。既製品は使わず、全ての材料を手作りしている。月、火、水は酵母とパンの中に入れる具を作り、木曜にパンの仕込みをし、日付が変わった金曜の深夜1時ごろから明け方にかけてパンを作り焼き上げる。全てを一人でこなす重労働。だが伊富貴さんは、「お客さんが待っているので全力で期待に応えたい。」と話した。
パンを作りに妥協を許さない。手間と時間を惜しまない伊富貴さんの本気。それとは裏腹に苦労を感じさせない屈託のない笑顔。伊富貴さんのパンがお客さんの心をつかんで離さない理由が良く分かる。
そして閉店後の迎える日曜日、もう一つの本気がはじまる。旦那さんと一緒に挑む「クライミング」だ。幼い頃、お祖母さんに連れて行ってもらった山登り、それは真紀さんを料理好きにするだけでなく、山好きにもしていた。米原の地は、伊富貴さんの本気を支える礎となっている。