伊吹山が悲鳴をあげている。 雪が解けた伊吹山を見上げると、麓からでも斜面の土が剥き出しになっているのが見える。とうとう雨水を蓄える力を無くし、2023年7月の大雨で土砂災害が起きてしまった。薬草に山菜、希少な動植物の生息地、生き物は伊吹山から数えきれない恩恵を受けている。その中でも人にとって重要なのが、伊吹山の伏流水。米原市民だけでなく、びわ湖の水を利用しているすべての人々の暮らしを支えている。今度は私たちが伊吹山を助ける番だ。雄大な大自然相手に、私たち小さな人間に何ができるだろうか?そこで立ち上がったのが『伊吹山植生復元プロジェクト』だ。
11.82mという積雪量世界一を誇る伊吹山の雪解け水が地中を通り川となってびわ湖に注がれている。冷たい水がびわ湖の底に流れ込むことで、水の循環を促し多くの生き物の活力源になってきた。それが近年、地球温暖化により伊吹山の積雪量は年々減り、2010年にはかつて多くの人で賑わっていた伊吹山スキー場を閉場に追い込んだ。その頃から徐々に数を増やしていったのが野生の鹿だ。雪が積もると餌もなくなり、自然の摂理で頭数が制限されてきた。それが、温暖化の影響で鹿が越冬できるようになり、現在は正常値の6〜20倍とされる数にまで膨れ上がり伊吹山の植物を食べ尽くしている。草があるからこそ雨水は時間をかけて地中に浸み込んでいくのだが、今では雨水が斜面を川のように流れ、土をえぐっている。そして、表土が土石流として流れ、登山道を壊滅させた。
伊吹山植生復元プロジェクトは、2024年から本格的にスタートする。そのアクションは大きく3つある。1つ目は、増えすぎたニホンジカの捕獲。2つ目は、登山道がある南側斜面の崩壊防止と植生の回復。3つ目は、山頂および3合目の植生保全となっている。伊吹山の生態系の中に人が介在して復元していくプロジェクト、各分野の専門家や滋賀県など多くの識者と連携を図り、2次的な生態系への負荷がかからないように丁寧に進めていこうとしている。一見すれば、鹿が悪者のように映ってしまうが、決してそうではない。鹿も伊吹山の生態系をつくる大切な存在。伊吹山植生復元プロジェクトは「動物、植物、そして人の最適なバランスの維持」を目指している。
膨大な時間や労力が必要になる伊吹山植生復元プロジェクト。かつての伊吹山の姿を短期的に取り戻せば良いということではない。伊吹山本来の美しい姿を将来にわたって維持していくことなのだ。現在進行形の地球温暖化に対峙して、伊吹山の生態系のバランスが未来に向けて保たれる持続可能な取り組みについて真剣に考え、企て、行動していかなければならない。そのためには、多くの企業、団体、個人の協力が何よりも大切になる。その第一歩、正しくプロジェクトを伝え、少しでも多くの人にプロジェクトに意識を向けてもらいたい。米原市では、伊吹山植生復元プロジェクトのロゴマークを策定し、専用のWebサイトをつくりプロモーションを推進している。