米原市曲谷(まがたに)にあるヴィーガンレストラン「MAGATANIA(マガタニア)」。自然に囲まれた静かな環境の中、美味しくて身体に優しい食事を楽しむことができます。オーナーの藤田さんがこの中山間の地を選んだきっかけは「琵琶湖」でした。琵琶湖から川を遡り「水源の森」へ。移住を決めた経緯や曲谷での暮らし、自然との関わりについて、藤田さんにお話を伺いました。
島根県出身の藤田さん。幼い頃から生き物を愛し、その生き物たちが暮らす環境が徐々に失われていくのを見て、胸を痛めてきました。大学時代には琵琶湖の環境保護活動に参加し、社会人になってからもその思いを胸に活動を続けていました。その中で、水源地域の森の環境が琵琶湖の水質に大きな影響を与えることに気づきました。琵琶湖から姉川を遡り、水源の森に移住することを決意しました。
「移住先を探していたとき、ふと目にした伊吹山に強く引き寄せられる感覚を覚えました。その後はまるで伊吹山に導かれるように次々と決まっていったんです。」
曲谷に移住してみて実感したのは、過疎化が進み、森の手入れが追いつかない現実があるということでした。山の健康は、人の手入れによって保たれます。90%以上が山林である曲谷地域で、どうすれば森を守り続けることができるのか。山の持続可能な管理方法を模索する中、出会ったのが「自伐型林業」という新しい林業でした。そこで、NPO法人自伐型林業推進協会の中嶋健造氏を招き、地元まちづくり団体の事業として講演会を開催しました。
「中嶋さんが提唱する自伐型林業は、地元の山を小規模に自分たちの手で手入れし、その間伐材を使って少しずつでも収入を得るというスタイルです。この方法に可能性を感じ、チャレンジしてみる価値があると思いました。」
その後、米原市みらいつくり隊(地域おこし協力隊)の3名が参加し、自伐型林業に取り組みます。伐採した間伐材は薪やシイタケの原木として活用され、さらに生木を利用するグリーンウッドワークという新しい分野に挑戦するメンバーも。
「人手不足や間伐材の流通など、まだ課題はありますが、まずは琵琶湖水源の森に入って小規模ながら手入れを始められたことは一歩前進かなと思います。
藤田さんが営むヴィーガンレストラン「MAGATANIA」は、移住後に発覚した奥様の癌がきっかけでした。藤田さん夫妻は病院での治療を選ばず、暮らし方・考え方を徹底的に見直しました。動物性の食事をやめ、身体に悪いものを一切取らないことに取り組んだ結果、病気を乗り越えることができました。この経験を病気に悩む人たちに伝えたいという思いでMAGATANIAをスタート。同時に「暮らシフト研究所」を設立し、食事改善や思考方法の提案、おむすびバーやイベント出店、食材・調味料の配達事業などを経て、ヴィーガン・オーガニック・グルテンフリーのカフェレストランMAGATANIAの開業に至ります。
自然環境に恵まれたMAGATANIAですが、ひとつ問題がありました。それは、水はけの悪さ。雨が降ると、1週間経っても水が引かず池のような状態でした。この環境を改善するためにお願いしたのが、「大地の再生」。代表の矢野智徳氏を招き、ワークショップを開催しました。2泊3日の合宿には30人以上が参加し、水脈整備に取り組んだ結果、MAGATANIAの水はけは劇的に回復しました。
「『大地の再生』のワークショップから5年が経ち、MAGATANIAの水はけはさらに良くなりました。自然が再生され、植物が根を張り、植生も多様化して豊かになっています。」
実際にその効果を実感した藤田さんは、この学びを生かして2年前から地元・曲谷自治会と連携して「五色の滝遊歩道」の整備に取り組んでいます。この遊歩道は、かつて石臼づくりに使われた花崗岩を運ぶ山道で、付近は文化的景観にも選定され、地域にとって大切な場所。自然が本来持つ回復力を生かしながら行われた補修はまもなく完了する予定です。藤田さんは、この環境再生の手法が伊吹山の再生にも役立つと考えています。
近年、土砂災害が続く伊吹山。藤田さんは、琵琶湖の「石けん運動」に触れながら、現在の伊吹山の状況と重ね合わせます。
「約45年前、琵琶湖に赤潮が発生した原因のひとつが生活排水だとわかり、滋賀県中の主婦を中心とした県民たちが合成洗剤を使うのをやめ、石けんを使おうという運動が起きました。それが行政を動かし、琵琶湖条例が制定された流れがあります。今、伊吹山の状況も同じように、このままではダメだという思いが地域の人々に強くなってきていると思います。みんなが参加し、貢献する何かができれば。その一つが伊吹山の植物の苗を育てること、そして将来的には伊吹山に戻すことだと思います。かつての石けん運動のように、市民が一丸となったムーブメントを作れたらと思います。」
藤田さんは、曲谷に住んでみてとても嬉しかったのは、こごみ、みょうが、山椒など、山菜の種類が豊富なことだと言います。
「奥伊吹は雪深い地域なので、移住を考える際にはハードルが高いかもしれません。一生ここで暮らすつもりでなくても、例えば、5年〜10年間くらい住んでみるといった感じで、まずは田舎暮らしを体験してみるのもいいのではないでしょうか。地域としては、行事を続けるためにも人手が必要ですし、一定の期間、安定して一定人数が地域に定着すればいいのかなと思っています。入れ替わりがあっても、常に人が地域にいることが大切だと感じています。興味があればぜひ声をかけていただきたいです。」
藤田さんにとって、身体に優しい食事や環境への取り組み、森の再生、地域への貢献は、すべてひとつの思いで繋がっています。一貫して環境への取り組みを続けてきた藤田さんの暮らしから、学ぶことがたくさんあります。MAGATANIAに足を運び、自然の中に身を置いてみてはいかがでしょうか。人も自然の一部であり、自然に生かされているということを、曲谷の自然の中で実感できるかもしれません。