奥伊吹の甲津原に移住した後、林業に携わり、現在は「スーパー生木ラボ」として、新たな木工の分野であるグリーンウッドワークに挑戦している鈴木さん。「木は乾燥させないと加工できない」というこれまでの既成概念にとらわれず、生木に可能性を見出し、魅力的な作品を次々と生み出しています。今回は、鈴木さんに移住のきっかけと、現在の活動についてお話を伺いました。
神奈川県出身の鈴木さんは、立命館大学の映像学部に進学し、実験的でコンセプチュアルな映像作品を精力的に制作。大学院では韓国やロンドンへと活動を広げ、卒業後も海外でアーティスト活動を続けました。その後、結婚と子どもの誕生を機に就職を決意するも、過労で退職を余儀なくされます。自然に癒されたいと考えた鈴木さんは、林業に魅力を感じ始めます。
退職後、未経験でも林業を始められる場所を探すうちに、米原の奥伊吹で自伐型林業の講習会があること知り参加することに。その後、地域おこし協力隊として林業に取り組む決意を固めました。ちょうどその頃、2人目の子どもの出産を控えていたこともあり、まずは単身で奥伊吹の甲津原に住むことにしました。移住したのが10月、甲津原はまもなく冬を迎えます。
「初めての年はやはり雪にやられました。何も知らずに京都から来たので。」と鈴木さんは笑います。厳しい雪と寒さの中、改装中の家は隙間だらけ。冬の間に改修作業を続け、翌春には家族全員での生活が始まりました。
地域おこし協力隊として林業に従事しながら、次第に林業だけで生計を立てることの難しさを感じるようになりました。副業として新たな方法を模索する中 、ワークショップで出会った木工制作に興味を持ち、鈴木さん自身もスプーン作りを独学で始めてみることに。インスタグラムやYouTubeで世界中の情報を集めていると、生木を使った木工「グリーンウッドワーク」という分野があることを知りました。
「これまで、木を加工するためには乾燥に1~2年、あるいはそれ以上の時間をかけるのが一般的だと思われていましたが、生木を使えばすぐに作業を始められるんです。生木の製品は割れやすいなどのデメリットがあると思われがちですが、それは作り方次第で、むしろ身近に生えている木を使えるなどメリットの方が多いと思います。」と鈴木さんは言います。
2018年12月、鈴木さんは「100本のスプーンを作ります!」とFacebookで宣言し挑戦。その後、主催したワークショップの後、より多くの人に木工制作の楽しさを伝えていきたいという思いを強くしました。YouTubeやブログで情報を発信し、道具や制作のヒントを共有していく中、その道の先駆者がメッセージをくれました。「ダメだ、うちに来い。」SNSを通じて師匠に出会い、師匠の下でさらに技術を磨きながら、出店や展示会に参加。次々と評判を呼び、生木を使った作品作りが鈴木さんの仕事として成り立っていきました。
「自分が手を動かして物作りをするとは思わなかった。」と鈴木さんは言います。学生時代から続けていたアート活動は、思想やアイデアを映像として表現するコンセプチュアルな作品でした。頭を使う表現活動が自分に向いていると思っていたそうです。今、生木を使って自分の手で作品を生み出している、そんな自分のことを「アーティストでも職人でもなくて、1人でやってる小さな木工所っていうのが一番しっくりくるんです。」と笑顔で話します。
現在、鈴木さんは生木を使った制作方法を広めるために講座や指導にも力を入れています。その特徴は、グリーンウッドワークの習得だけでなく、商品販売のためのWeb制作もセットで学べることです。
「僕は、生木を使った制作は特別な技術だとは思っていません。実際、僕もここ3〜4年前からほぼ独学で始めて、今ではこれで生計を立てています。だから誰でもできることだと思います。日本は木の文化が豊かで、それをもっと活かすべき。生木を使った制作を続けることで、それが生業になって、林業という大きなアプローチではなくても、少しずつでも山の木が使われて循環していく。前向きな循環ができれば一番いいなと思っています。」と鈴木さんは言います。
移住地としての米原の魅力をお聞きすると「米原は静かで、ものづくりに集中できる環境だと思います。音の出る作業なども、場所を選べば問題にならないと思いますよ。商品を販売する際にも、京都・大阪・岐阜・名古屋へは車で1~2時間ほどで行けますし、米原には新幹線も止まるので、アクセスがとても便利です。それに、通勤路で見る伊吹山が本当に美しくて、四季折々、毎日変わる景色を楽しんでいます。」と教えてくれました。
たくさんのオーダーを受けてお忙しい中、和やかにインタビューに答えていただきました。ご自分のことをアーティストではないと言いますが、作業台に並べられたお皿や器からは、鈴木さんならではの美意識が静かに伝わってきます。グリーンウッドワークに新たな活路を見出し、自然を生かし、生かされながら、ここ米原の奥伊吹で暮らす鈴木さん。鈴木さんの取り組みは、今後、山間部への移住を考える人々や、山の資源活用に関心を持つ人々にとって、大きな可能性を示すものとなるでしょう。