びわ湖の素編集部から依頼され、市民団体HALO harmony(ハロハーモニー)とその子どもたちが訪ねたのは、米原市上丹生にある井尻さん宅。霊仙山の麓にあり、古くから木彫の里として知られるこの地区では、毎年4月に「上丹生チューリップまつり」が開催される。今日訪れたのは、そこで販売される地元のお母さんたちによもぎ餅の作り方を教えてもらうためだ。米原で採れた香りの良い新芽のよもぎを使用したお餅は、午前中には売り切れてしまうほど人気なのだという。誰かが「まぼろしのよもぎ餅」なんて言い出すから余計に食べてみたくなる。今回は井尻さんの協力と指導のもと、子どもたちと一緒によもぎ餅つくりを体験してきた。
最初に驚いたのは「餅つき機」を使わないこと。たくさん作って販売するのだから、餅つき機を当然使うのだろうと思っていたが、何と昔ながらの臼と杵でお餅をつくのだ。私も臼と杵を見たことがある程度で触ったことなんてない。子どもたちも「どうやって使う道具なのだろうか」と興味深々の様子。井尻さんのお母さんに「もう、もち米を蒸してあるよ。冷めないうちに、早く早く!」と急かされながら餅つきがスタートした。
まず、茹でたよもぎを臼の中ですりつぶし、その上に蒸したもち米と塩をひとつまみ入れる。井尻さんが杵を上げ、真ん中を目がけて振り下ろす。「すぱあん!」と軽快で気持ちのよい音が土間に響く。すかさずお母さんが水で濡らした手で餅を真ん中によせる。それを数回くりかえすともち米がまとまり、優しいよもぎ色に染まってくる。
「やってみる?」というお母さんの言葉で、小学生の男の子が餅つき役を、私が合の手をすることに。「振り上げたら杵の重さを利用して落とすだけだよ」と、お母さんは簡単に言うけれど、井尻さん親子のようにはなかなかいかない。井尻さんによれば、今年のチューリップまつりでは七臼分のお餅をついたそうだ。「この作業を七回も!?」と子どもたちと一緒になって驚いた。
お餅が出来上がると、休む暇もなく次の作業へ。「冷めるとお餅があつかいにくくなるから」と井尻さん。餅つきの様子をあっけにとられて眺めていた子どもたちを急かして家の中を移動する。井尻さんが前日に炊いて冷ましておいた、つやつやのつぶあん。これをだんごのように丸めていく。これは子どもたちの得意分野だ。ためらうことなくあんこの入った容器に手を入れて、それぞれの手に収まる最大限の大きさですくっていく。はらはらしながら見守るが案外きちんと団子の形になっている。大きさがばらばらなのはご愛嬌。これをお餅で包んでいく。
小さい子はあんこを丸める作業を、お兄さんお姉さんチームは大きなひと塊のお餅から必要な分だけギュッとちぎって広げ、丸めたあんこを包んでいく。きっと、うまいやり方はいくらでもあるのだろうけれど、ここはあえて「お餅であんこを包んでね」という指示だけにしておく。すると「わー!あついー」「手にくっつくー」「水で手を濡らした?」「わっ、お餅に穴があいちゃった」「食べちゃう?」「これ、きれいにできたよ!お母さん食べていいよ」「もう1回つくってみよーっと」「ちょっと、このあんこ多すぎーへらしてへらして」「こっちには大きいあんこちょうだい!」などと声がとびかう。そんなお兄さんお姉さん達を尻目に3歳のちびっこは、誰かにちぎってもらったお餅を右手に、自分で丸めたあんこを左手にもって、交互にぱくぱくと口に入れている。「出来立てがいちばんおいしいからね。」と微笑む井尻さんのお母さん。
よもぎ餅つくりを終えた子どもたちは、家の前の水路でボウルやバットを洗うお手伝い。お手伝いも束の間に、勝手に水遊びをはじめている。通りかかった近所の方も「魚泳いでるで。見てみ。おばちゃんたちも入りたいなあー」と子どもたちに声をかけてくれる。ずっと昔から続く上丹生の人々の暮らし。冷たい水と清らかな空気が流れていた。来年もまた、春の日差しに背中をあたためられながら、よもぎを摘む井尻のお母さんの姿が目に浮かぶ。