全国的な農業課題になっている担い手不足や高齢化による生産基盤の弱体化を食い止め、その裾野を広げることを目的として、令和5年に農地法が改正され、誰でも農地を取得しやすくなった。この法改正に加えて、多様な農業人材を育成・応援しようとする風潮や、「仕事をしながら畑をしてみたい」という移住者の田舎暮らしに対するニーズを追い風に、2023年8月「まいばら農業塾」がスタートした。「小さく無理なく始める農業の入り口」をコンセプトに、農業をやったことがない人が楽しく学べることを大切にしている。
まいばら農業塾では、半年にわたり月1〜2回の座学+実習を通じて野菜づくりを学び、各自に割り当てられた20平米ほどの農地で実践してもらう枠組みになっている。市内の農業法人が管理する畑を借り受け、滋賀県の元農業普及指導員を講師に迎えて、農業についてゼロから丁寧に教えてもらうことができる。最終的には自分たちがつくった野菜を直売所で販売することになっている。また、受講生は市外在住の方も多く、遠くは大阪から参加されているとのことだった。
まいばら農業塾が開講されている、びわ湖を望む畑にお邪魔すると、すでに多くの受講生で賑わっていた。それぞれがいきいきとしている。畑の草とりをしていたり、水やりをしたり、仲間で楽しそうに話していたり、みんな主体的にこの塾を楽しんでいるのがすぐに分かった。この日は収穫に関する講義のようで、みな一様に自分が育てた野菜の育ち具合が気になるようだった。受講生に話を聞いてみると、初めに座学の時間があって、その後に実際に育てた野菜を収穫してみるということだった。開放的なロケーションの中で、こちらもワクワクしながら参加させてもらった。
講義の内容を聞くと、土づくりから始まり、畝立て、種まき、収穫のほか農機具の使い方、そして販売戦略まで多岐にわたるが、実際の農作物の成長に応じて座学と実習が組まれており、理解しながらステップを進めていけるので知識の習得がしやすい。座学では、講師陣がスライドを交えながら丁寧に進められていた。実習では、講師も受講生もみんな積極的にコミュニケーションを図って楽しく作業している様子が印象的だった。この日は収穫実習だったので「立派だね!」「まだもう少し収穫は待とうかな」など、あちこちから楽しい声が聞こえてくる。みんな真剣で、夢中になっていた。受講生からは「みんなで一緒にやれることが何より楽しい」「みんなとこの場所にいるだけで価値がある」など、このコミュニティは農業講座以上の価値があると話してくれた。
講座は月に1〜2回なので、普段の水やりはどうしているのか気になり受講生に聞いてみると「近くに住んでいるメンバーさんが手分けしてお世話してくれています。元々の決まり事だったわけではなくて、遠いからやっておくねって感じで自然にそういうカタチになりました」と教えてくれた。その内容はLINEなどで共有されて、遠方に住んでいる人や用事などで参加できない人にとって大きな助けになっている。「自分の作物よりも、メンバーの野菜の育ち具合の方が気になったりします」とも話してくれた。回を重ねるごとに交流も深まっているようで、喜びや楽しさを共有できるコミュニティになっていると教えてくれた。メンバーの中には卒業した後も一緒に農業をやりましょうという話もあるそうだ。
「まいばら農業塾」は周りからの反応もとても良い。受講生の一人でNHK大津放送局にお勤めの藤本さんは、農業塾に参加してみるとその取り組みがとても素晴らしいことを実感し、自らカメラを回し取材をしてドキュメンタリー企画としてNHKで放送した。すると、この放送によって想像していたよりもはるかに大きな反響があり、試行錯誤で始めた企画が評価してもらえたことで自信がついたと市役所の担当者・福井さんは話してくれた。さらに今後は、米原のシティセールスや食育にも繋げ、地域の特産品の素晴らしさに目を向けてもらえるようにしたいと話してくれた。
米原の魅力がこの『まいばら農業塾』にぎゅっと詰まっているように感じた。実際に土を触って、みんなで協力しながら野菜を育て、販売する。その一連の作業や何気ない会話を通して農業の楽しさや難しさ、仲間の大切さを実感できる。米原の環境だからこそ実現できるまいばら農業塾は、米原の人ならではの優しくてあたたかいコミュニティになっていた。この先も、ゆっくり農業で日本を優しくあったかくしてほしいと思った。