気さくで上品。所作だけでなく、考え方や生き方まで姿勢がよいご夫妻だなと思った。結婚当初から、10年は日本、10年はフランス、ゆくゆくは日本とフランスの二拠点で生活していきたいと考えていたエルゴット夫妻。そろそろフランスへ移ろうかなというタイミングでコロナ禍になり、国外へ出るのが難しくなってしまった。それを機に、まずは日本での拠点を固めようと、名古屋からの移住先を探し始めた。海外で過ごした経験があったからこそ、日本の文化をもっと身近に感じたいと思っていた二人。移住先の条件には、みほさんの実家(愛知県知多半島)から1時間程度の自然豊かな田舎、そして古き良き文化が根強く残っている場所を挙げていた。知人に相談したところ、湖北地域を薦められ、実際に足を運び、ここ米原の地に出会う。
米原に住んでみていかがですか?との質問に「田舎だから不便ってことは何ひとつ無くて、逆に快適になったかもしれない」と答えるみほさん。例えば、名古屋にお住まいの頃は、すぐ近くに大きなスーパーがあったけれど、道は交通渋滞や一方通行で動きにくく、駐車も立体駐車場に駐めなければならず、買い物にとても時間がかかっていたとのこと。米原は駐車場も広くて、渋滞もない、駐車料金もかからないし、日常生活がストレスフリー!公園や図書館も充実しているし、車ですぐに行けるのも嬉しいと話してくれた。
エルゴット・フロリアンさんは、大学講師。週4日、フランス語と美術史を教えるため、名古屋まで電車で通勤している。米原からの通勤時間は2時間程度かかるが、米原が始発のため車内の混雑はない。「乗ったら着くまで寝られて、実はとても楽です」とフロリアンさん。みほさんは、フリーランスのインテリアコーディネーター。5歳の男の子と3歳の女の子の子育てをしながら、オンラインで仕事をしている。
「まだまだ出来上がってないから、披露するのは本当に恥ずかしいんだけど」と言いながら、改修中の自宅を案内してくれたみほさん。築95年の歴史ある古民家の大きな梁や柱をそのまま生かしつつ、フロリアンさんがDIYでリノベーション。長身のフロリアンさんも過ごしやすいように随所に工夫がされている。こだわりは曲線。おしゃれなのに落ち着く色づかいや内装。機能的だけで終わらないのはインテリアコーディネーターのみほさんの手腕。日常を大切にしたいという二人がこだわった空間は、とても居心地が良い。
休日は、広い庭で子ども達が絵の具を広げて楽しむことも多いようだ。松ぼっくりに色を塗ったり、葉っぱでアートを作ったり。「周りを気にせず思いきり遊べるから、本当にありがたい環境」とにこやかに話すみほさん。子どもたちの創造力も豊かになるし、大人の心にもゆとりが生まれているという。田舎を選んだ大きな理由のひとつは、愛する子どもたちのためのようだ。
「米原の人の優しさ、あたたかさに感動した」と、こんなエピソードを話してくれた。近所のおばあちゃんが、畑をやっていない家庭の子どもたちに、一畝ずつサツマイモを育ててくれていたんです。好きなときに掘りにおいで、せっかく田舎にいるんだからって。ご自身のお孫さんの分だけでなく、近くの子どもたちみんなに、お芋掘りの機会を作ってくれていて、涙が出るくらい嬉しかったですとみほさん。他にも、玄関先にそっと採れたて野菜が山盛り置いてあることもあるとか。地域の子どもたちは、地域のみんなで一緒に育てる。そんなおおらかな子育てが 米原ではできる。「飾らない自然体の人の良さ、華美ではないけれど落ち着いた美しさがある風景」それこそが、米原の魅力だと みほさんは話してくれた。
10年後はどうしていますか?との質問に、「米原に住み続けますよ」と当然のように答えてくれた二人。「まずは、自宅の改修を進めて、隣の広い土地に、駐車場と念願の畑、芝生広場、フロリアンさんのアトリエを作る予定。完成したら、ガレージセールやポットラックパーティー(持ち寄りパーティー)で地域の方が集まる場所にしたい!米原とフランスをつなぐホストファミリーもやりたいです!」と夢を語ってくれた。他人と比較しない、自分達らしい生き方を選択したら米原にたどり着いたというエルゴット夫妻。お二人が何より大切にしているのは、時間。家族や周囲の人たちとの時間を大切にするため、自分たちが幸せになれる場所が、米原の地だったという。